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マンションのエントランスを出て、とりあえず駅の方へと向かって歩き始めた。家の近くには、割と大きな公園がある。
「ここは、日の出が丘公園。この辺りでは、割と大きな公園でね。ちょっと公園内を横切ってみる?」
「うん!行ってみたい。」
俺と沙希は、日の出が丘公園の入り口を入る。左右には青々とした木が、俺たちを囲むようにして茂っている。その木々の隙間から、少し傾いた日が、放射線状に差し込んでいた。公園は、外周がサイクリングコースになっている。その内側に入ると、開けた広場があって、春になると花見客で賑わう。今日はボール遊びをしている中学生くらいの集団の楽しそうな声が聞こえた。日が出ている時は、こんな賑やかな感じだが、日が沈むと公園内は、一気に真っ暗になる。夜になると夜行性の動物のように、どこからともなくカップルたちが現れ、他のカップルの目を気にしながら、各々がイチャイチャと楽しむのである。俺と沙希は、サイクリングコースに沿うように、公園を横切った。この時間は、さすがにまだカップルたちの姿はなかった。
「良い雰囲気の公園だね。」
「そうでしょ?でもね、もっと取っておきの場所があるんだ。」
公園を出てしばらく歩くと、大きな赤い鉄橋が見えてくる。その鉄橋の下には、流れが速くて太い川が流れている。その川は東京都と神奈川県の県境になっていて、少摩川という。俺と沙希は、堤防のような丘を越え、河川敷の方へと歩いた。
「ここから見る、夕焼けが最高なんだ。ほら、もうすぐ、日が沈むよ!」
俺は沙希の方を見た。沙希の目は、まっすぐに夕日を見つめていた。幻想的な夕日に照らされたその瞳は、キラキラと輝いている。
「本当に素敵ね。歳を取っても、またこの景色が見たいわ。」
沙希はうっとりとした表情をしながら、しみじみと言った。
「また、何度も来れるよ。俺ん家に住むんだし、ここまで歩いてすぐだしね。」
話しているうちに、夕日は完全に沈んだ。気付けば、辺りは真っ暗だ。河川敷に街灯はなく、堤防の道にポツポツと明かりがあるくらいだ。俺と沙希は、堤防の傾斜に仰向けになって天を見た。
「わぁ、すごいね。」
沙希は、お腹の底から出したような声で言った。天には無数の星が灯る。どこまでも終わりのないプラネタリウムみたいな世界が、目の前に広がっていた。
「この景色が、最高なんだ。勉強で行き詰ると、いつもここに、こうやって寝そべって、空を見てるんだ。」
俺は得意気に言った。月明かりだけが俺らを照らす。
「あっくん、覚えてる?私たちが出会ったときのこと。先生がテストの答案をバラ撒いちゃってさ。」
「うん、あの時のことは鮮明に覚えてるよ。それまでは、沙希の後ろ姿しか見えなくて、あの時、初めて沙希の顔を正面から見て、一目惚れしちゃったから。」
「あら、そうなの?てっきり最初は華かと思ってたわ。あっくん、あの後、みんなでカフェでお茶した時も、華のことばっかり見てたもん。」
「それは・・・その・・・。」
間違えても、華のおっぱいに目が釘付けになっていたとは言えない。でも、沙希はそれを見透かしたように言った。
「まぁ、華、おっぱい大きいもんね。あぁいうの、男の人はみんな好きよね~。別に華をディスってるわけじゃないからね。」
いやいや、沙希のおっぱいも全然負けてないじゃないか。
「俺は沙希のおっぱいの方が好きだけどね!だって、沙希、いつもおっぱいが目立たない服ばっかり着てたじゃん。初めて沙希の部屋に行ったとき、ビックリしたよ。本当にキレイだった。」
俺は少し照れを隠しながら言った。
「私、コンプレックスなの。男の人から、胸元に視線を感じるのが好きじゃなくって。だから外では、極力目立たないようにしてるのよ。」
「そうだったんだ。それに最初はすごくおしとやかで、物静かな女の子だと思ってたけど。実際に蓋を開けてみたら、これですよ。」
俺は、沙希を指差して、冗談交じりに言った。
「ちょっとっ!でも、女の子って、みんなそういうものよ。自分が心を許した人にしか、本当の姿は見せないの。普段は猫被ってて、心の中では、男の人が想像もしないようなことも考えてるんだから。」
「それにしても、沙希の変わりようには、ビックリしたよ!良い意味でね。こんなに大胆な子だとは。俺、そういうところも好きだよ。」
沙希は頬を赤くしてはにかんだ。
「そうだ、今度熱海に行くとき、たぶんみんなで海入ることになりそうだけど大丈夫?だって、みんな水着着るでしょ?」
「ううん、みんなもう良く知ってる仲だし、そういう人たちなら大丈夫よ。」
俺は、沸々と嫉妬心が芽生えた。俺と沙希の二人だけの『秘密』が、他の人たちに共有されてしまうような感覚だった。まぁ、その代わりに、華や璃子ちゃんの水着姿を拝めるから、良しとしよう。
「それにしても、今のその格好は本当に大胆だよね!」
俺は笑って言った。沙希も釣られて笑う。あっ、そういえば、俺もローブの下は、パンツ一丁だった。
「私ね、心身ともに、常に解放的でありたいの。そうしないと、心が壊れてしまいそうで。だんだん目も見えなくなってる。そのストレスは相当なのよ。なんとか現実から目を背けようとしても、嫌でもその黒い影が目に映るんだから。」
月明かりが俺と沙希を包む。オフホワイトのローブは、その白さを増した。沙希はおもむろに立ち上がり、ローブの前のボタンをゆっくりと開ける。そして、俺の方を振り向いた。沙希の白い肌が露わになる。
「私、決めたの。さっき、バスでおばあさんも言ってたけど、人生何があるかわからない。命の灯火がいつ消えるかもわからない。だから、今を必死に生きるわ。」
月光の影となり、沙希の身体のシルエットが美しい。ミロのヴィーナスのように、その彫刻のような曲線が俺の身体を熱くした。沙希はそのまま、俺に跨る。そして、俺のロープの前のボタンを一つ一つ丁寧に外した。肌と肌が触れ合い、沙希の肌の温もりが、俺に伝導する。俺はここが外だということをすっかり忘れていた。ただただ、本能のままに、身体も、心も、開放した。
「・・・。」
沙希は、全身で『今』を感じるように、目を瞑っている。
河川敷のオフホワイトは、月明かりの色に染まった。
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