第17話 『誤解』
★ 『シーン画集』へは、こちらをクリック!
※ 『シーン画集(R18)』は、現在一時的に「未公開」です。
俺は平日仕事や大学の授業が終わると、予備校の自習室へ直行する生活を続けている。今日も仕事後、重い身体にムチを打ちながら、予備校までたどり着いた。建物のエントランスの二十メートルくらい前に来たときに、ちょうど涼介と華も建物の中に入っていくのが見えた。
「フフフッ。」
俺は、思わずニヤけた。華は涼介の右腕をしっかりと掴んで自分のおっぱいの谷間に手繰り寄せ、ガッチリと腕を組んでいる。涼介、ついに華と付き合えたんだ。俺は嬉しかった。勉強合宿から始まり、その後はどうなっているのか、ちょうど気になっていたところで、聞くタイミングがなかったからだ。エントランスに入って二人が腕を解いたことを確認して、俺は二人に駆け寄った。
「おっ、涼介と華じゃん!」
「おっ篤!ちょうどそこで、華と会ってさ~。」
涼介は誤魔化しているが、俺はしっかりこの目で見ている。三人で話していたら、その後ろから声がした。
「お疲れさま~!」
璃子ちゃんだ。
「あれ~?璃子ちゃん、どうしたの~?」
「私、直前期からこの校舎での講義になったの!キャンパスも、ここから近いしね。」
「そっかぁ、じゃぁ、頻繁に会えるかもね!」
華は嬉しそうだった。璃子ちゃんもそれに応えるようにニコニコしていた。
「今日は講義?」
「ううん、今日は自習しに来たの。吉田さんも、いつも、ここで自習してるんですか。」
突然の牽制球に、俺はビックリした。
「うん、まぁ、たまにね。」
マズイ、ここに自習しに来られては困る。どうにかならないものか。俺は何とか誤魔化す。
「でも、最近は、自宅でやることが多いかな~。」
「そんなんですね。でも、私、近いから、また来ようかな。」
おどけたように言ったが、璃子ちゃんの目は笑っていなかった。
「そうだ、涼介さん、ちょっと相談があるんですけど、後でちょっと良いですか~?」
「うん、なんだろう。璃子ちゃんこれから自習だよね?じゃぁ、また自習が終わった頃にLINEするね!」
璃子ちゃんは悪魔のような微笑みを返した。その隣で、華の顔はムッとしている。俺たちは、それぞれ自習をしに、一旦別れた。
仕事後となると、軽く晩飯を食べて、十九時くらいから二十一時過ぎくらいの約二時間しかできない。まぁ、どっちにしても、仕事後の疲れた頭では、それくらいが限界だ。俺は二十一時を少し回ったあたりで、自習を切り上げ、帰る準備をする。エントランスを出たとき、ちょうど涼介と璃子ちゃんが話しながら、駅と向かう後姿が見えた。涼介にそうだんなんて、なんだろう。話しながら歩いているのに、二人の距離は近い。あの子は、誰に対しても、懐に飛び込んでくタイプなのか。事情を知らない人が見たら、カップルのようにも見える。
「篤~、お疲れ様!」
後ろから華の声がした。ゲッ、タイミング最悪だ。華ではない誰かであってくれという俺の願望虚しく、華は俺の前に現れた。
「篤も、もう帰り?」
そっちを見るな。振り向くな!俺は心の中で叫んだ。涼介と璃子ちゃんがカップルのように歩いているのが、見えてしまう。
「うん、勉強の方は順調?」
俺は何とか場を繋ごうとする。華は早く帰りたいのか、なんだかソワソワしている。ついに、駅へ向かう道の方に身体を反転させてしまった。
「篤、駅まで一緒に帰ろっ!えっ、何あれ?」
あぁ、見てしまった。気付いてしまった。俺は恐る恐る華の顔を見た。案の定、嫉妬と怒りに震えているようだった。
「涼介に相談って、なんだったんだろうね?」
華の声は、棘が無数に出ているように鋭かった。
「勉強のことかな?」
「勉強のことなら、私に相談してくれれば良いのに。」
「そうだよね・・・、じゃぁ、あれかな、就活の相談とか?」
俺にしては機転の利いたことが言えたような気がする。
「就活の相談だったら私は、わからないわね。そういえば、篤は、就活、どうするの?」
なんとか話を逸らせた。俺はホッと一安心した。
「就活ね、大手税理士法人とか考えてるけど、もう一つ合格しないと厳しいかな。だから、ある意味、今年の試験は人生掛かってるかも。」
ちょっと冗談まじりに言うと、華は笑ってくれた。
「みんなで頑張ろうよ。せっかくのクラスメイトだしね!あと、沙希も別のところで戦ってるし。」
そうだ、こんなことで弱音を吐いてはいけない。もっともっと辛く長い戦いに挑んでる人もいるのだから。
「気分転換に、ご飯でも食べに行くか!こんな時は、ちょっと奮発してさ。」
「良いね!行こう行こう!やけ食いだ~!」
「坂の途中にあるホテルのディナーバイキングが、そんなに高くなくって評判良いらしいよ。」
「ホテルのディナーかぁ。素敵!バイキングなんて、楽しそう!」
華の目は輝いていた。案外単純なのかもしれない。
――翌日曜日。
華と涼介の間には、なんとなくピリピリムードが漂っている。華は涼介の聞こえないところで、俺に言った。
「篤、この前の仕返しをするから、後でちょっと付き合ってよ。」
華は悪魔のような微笑みを浮かべた。前にどこかで見たことがあるような表情だ。ここにも悪女降臨か。
「今日の講義は、ここまでにします。来週は答練の回なので、しっかり勉強して、上位三十%に入れるように、頑張ってください!では、お疲れさまでした。」
塚原先生が、元気よく挨拶をする。教材の片付けをしていると、華が涼介に聞こえるように俺に言った。
「篤、ちょっと時間ある?とりあえず、この前のホテル行こう!けっこう楽しかったじゃん!」
「この前のホテル?あぁ、あの夜のね。」
俺は強引に手を引っ張られ、エレベーターに乗せられた。ホテルなんて、誤解されないだろうか。教室からの去り際、涼介がこっちを睨んでたような気もするし。気のせいだと良いけど。
――その日の夜。
案の定、涼介からLINEが来た。
「どういうつもりだよ。あの後、どこで、何してた?」
なんだ、怒っているのか?まぁ俺は何もやましいことはしていないし、本当のことを言おう。
「ホテルに行っただけだよ。そのホテル、色々充実してるから楽しくてさ。」
「はぁ?やっぱりな!人の彼女と寝て、楽しかったか?華のおっぱいを揉みしだいたりしたんだろ?俺の知らないとこで、今までもハメまくってたんだろ?最低だな!」
涼介は、何か誤解をしている。そもそもホテルには、ディナーバイキングに行っただけだし、華とはもちろん身体の関係はない。涼介は自分の彼女が寝取られたと思って、カンカンだ。
「涼介、何か誤解をしているようで。ホテルっていうのは、ディナーバイキングに行っただけだよ。涼介が璃子ちゃんと仲良く歩いているところを華が目撃して、怒ってたから気分転換に連れて行っただけ!」
俺は本当のことを送った。でも、既読にはならない。それ以降も、既読になることはなかった。
「はぁ~。」
俺は大きくため息をついた。これは巻き込まれ事故か?元はといえば、涼介が璃子ちゃんと仲良くしてるところを華が見て、華がその仕返しに俺を使って、今、涼介に誤解されてる。どうしたものか。この誤解は、華に解いてもらうしかない。俺は華にLINEを送った。
「華、何か涼介が、俺と華がホテルに行って、身体の関係を持ったって誤解してるみたい。華からも、誤解だって言っといてくれない?」
華からすぐに返信が来た。
「いい気味だね。篤には悪いけど、涼介が反省するまで、放っておこうかな。笑」
「やめなよ!喧嘩して本当に別れちゃったら、元も子もないし。」
「そうだね~じゃぁタイミングを見て、言っておくね。」
タイミングとは何か。今すぐにでも言ってほしい。
↓『Golden Time』公式ウェブショップはコチラ↓
理マス・理サブ貼付用の『図解・一覧表』など、
『受験生お助けツール』好評販売中!
↓他の受験生の方のブログはこちら↓