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――週末、日曜日。
今週も講義が始まった。
「みなさん、おはようございます!」
先生の目の前の長机の二列目にいつも座っている沙希の姿がない。まだ体調が戻ってないのだろうか。あれ以来、沙希と毎日のようにLINEでやり取りをしている。二日前には、もう大丈夫と言っていたけど、来てない。心配だ。
「それでは、テキスト五十六ページを開いてください。」
講義が進み、休憩時間になる。
「今日、沙希どうしたんだろうね。」
華がそういうと、教室の扉が開いた。そこには沙希が立っていた。
「遅くなって、ごめん!ちょっと病院に寄ってた。」
みんな安堵の表情を浮かべる。俺もホッと肩を撫で下ろした。
「沙希、いつもの席空いてるよ!」
華が指を差して促す。
「ありがとう、華。」
俺もその後に続く。
「沙希、あとで板書とかレジュメとか、整理したら渡すね!」
「篤、ありがとう。助かる!」
些細なやり取りだったが、俺は沙希と直接話せて嬉しかった。涼介と華は、俺と沙希が毎日のようにLINEをしていて、着実に距離を縮めていることなんて、夢にも思っていないだろう。まぁ、二人にこの思いがバレると色々と面倒くさいから、その方が良い。それよりも、その二人はどうなったんだろう。どんなやりとりをしているのか。機会があったら聞いてみよう。
「みなさん、次回は実力テストです。この回から理論の範囲がいつもよりも広がりますので、しっかり復習して臨んでくださいね。もし学習が上手く進んでない方は、個別に面談するので声を掛けてくだいさいね!」
いよいよ税法の壁のお出ましか。俺は今まで習った理論の範囲はひと通り暗記してきた。でも、これからは、その暗記を維持しながら、これから次々と習う理論も暗記していかなければならない。想像しただけでヤバい。今までも必死に勉強してきたつもりだった。今でもいっぱいいっぱいなので、心が折れそうだ。
「はぁ~。」
周りに聞こえるくらい大きなため息が出た。みんなが乗り越えなきゃならない壁ということはわかってるのだが。そうだ、沙希に相談してみよう。沙希は既に『所得税法』と『国税徴収法』に受かってる。理論を暗記するコツを何か掴んでるかもしれない。あと、先生にも面談を組んでもらって相談してみよう。
講義が終わり、みんな片付けている中、沙希は急いでいた。
「私、時間がないの。」
そう言い残し、そそくさと教室を後にした。
「お疲れ様!」
みんなそれに応えるように、軽く挨拶する。あっ、講義の板書とレジュメを沙希に渡すのを忘れた。まぁ良いや。帰ったら夜にLINEしよう。
「篤、ランチ行く?」
「良いね!行こう行こう!」
「華は、どうする?」
「私はちょっと先生に質問したいところがあるから、今日はいいや~。」
塚原先生との面談を週末の土曜日夕方に入れて、教室を後にした。
俺と涼介は、いつものカフェに入った。
「来週のテストは大変そうだよな~。」
「ね~範囲が今までの倍じゃん!どうしよう。」
「暗記パン食べたいわ、俺。」
「俺も~。でもトイレ行って出したら忘れちゃうんでしょ、あれ。」
「それじゃ、意味ないな!」
「ハッハッハッハッハ!」
生産性のないトークが始まった。涼介は緩んでいた表情を少し引き締めて、俺に切り出した。
「そうそう、俺、考えてたんだけど、今度みんなで勉強合宿しない?どう、楽しそうでしょ?」
「勉強合宿?みんなでどこかに泊まりに行って、一緒に勉強するってこと?」
「その通り!単刀直入に言うと、そこで俺は華に思いを伝えようと思ってる。二人だけで合宿はできないから、篤もついて来てよ!あと、沙希も誘ったら来るかな?」
なるほど、良く考えたものだ。これなら俺にもメリットがある。涼介が華と一緒にいる時間は、俺は沙希と一緒にいれるってことだ。とりあえず、まだ涼介には、俺が沙希を好きなことはバレてなさそうだな。あとは、沙希がこの話しに乗ってくるかどうか、そこが一番大きな問題だ。そういえば、大学四年ということは、今年で卒業か。
「そういえば、沙希って、今年卒業じゃなかった?プチ卒業旅行って言って誘えば?」
他人事のように、俺は涼介に言った。内心は、なんとしても沙希を参加させてくれ!と思っている。
「じゃぁ、とりあえず勉強合宿はやる方向で決まりね!篤、わかってるな?その時は、よろしく。」
俺は少しわざとらしい笑みを浮かべながら大きく頷いた。こちらこそ、計画実現をよろしく。
――その夜。
俺は晩飯を食べた後、沙希にLINEした。
「今日はお疲れ!講義後に、レジュメとか渡しそびれちゃった。来週の講義前に渡すのでも良い?それじゃぁちょっと遅いかな?」
すぐに既読がつき、沙希から返信がきた。
「わざわざありがと。助かる。理論の勉強はなくてもできるから、レジュメはまだ日曜日で大丈夫だよ。あっくんの時間のある時で。」
最近毎日のようにLINEをしているせいか、沙希は俺のことをいつしか『あっくん』と呼ぶようになった。こういう小さな変化は、すごく嬉しいものだ。距離が縮まった感じがする。しかも、みんなの前では、篤と呼んでいるところも、何か『秘密』を共有しているようで、テンションが上がる。そうだ、沙希に理論の暗記のコツを聞きたかったんだ。
「そういえば、沙希って、『所得』と『国徴』に受かってるんだよね。俺、なかなか理論暗記できなくて。何かコツがあったら教えて!」
すぐに既読がついた。でも、なかなか返信が来ない。今、頑張って打ってくれているのだろうか?俺のトークの下に、沙希からの返信が早く表示されないかと、画面を凝視した。まだ来ない。とりあえず、待つことにした。携帯をテーブルに置いて、テレビをつけた。
五分くらいすると、スマホが鳴った。
「んっ?」
いつもと違う着信音だ。急いでテレビの電源を消し、俺はあわててスマホの画面を覗き込む。
「着信?」
俺が不思議に思っていたら、先から返信が来た。
「ごめん、間違えて発信ボタンを押しちゃって。」
俺はチャンスとばかりに返事を返した。
「大丈夫!そうだ、打つの大変だと思うから電話折り返すよ!」
ここぞとばかりに、沙希から返信が来る前に、LINEの発信ボタンをそっと押した。発信音がなる。心臓の鼓動が全身に響き渡るくらいに大きくなっていく。まだ出ない。俺の手は震えていた。
「もしもしっ?」
沙希の声だ!沙希が出てくれた!興奮を抑えるように、俺も応える。
「もしもし?沙希?電話しちゃってごめんね、文字打つの面倒くさいかなと思って。今、大丈夫?」
少しこもったような声が電話越しに返ってくる。
「ううん、ちょうど今、お風呂に入ってるところなの。半身浴中~。」
なんと!電話の向こうには、お風呂に入っている、しかも裸の沙希がいる。裸の沙希と、今話している!俺は更に興奮して、下半身が膨らんできた。
「お風呂中にごめんね。電話また掛けなおそうか?」
「大丈夫、しばらく出ないから。で、何だっけ?理論の覚え方のコツ?」
最早そんなことはどうでも良かった。でも、聞いたからには、最後まで聞こう。今後のためにも。
「うん、何かコツがあったら教えてくれないかな。」
「わかった、あっ、ちょっと待って、手が濡れてるから、スピーカーで話すね。」
沙希はスピーカーに切り替えた。さっきよりも色々な音を拾う。お風呂の水が滴るような音が聞こえてきた。エロい。とてもエロい。この状態で、一発抜けそうだ。沙希は続けた。
「私の場合はね、音読かな。いつもこうやって半身浴をしながら、理論を音読するの。」
「なるほど。」
そういうと沙希は、理論の一節を読み始めた。
「例えばね、『国内において事業者が行った資産の譲渡等(特定資産の譲渡等を除く。)及び特定仕入れには、消費税を課する。』みたいな感じで。」
その声は、とても澄んでいて艶やかだった。録音したい。何回も聞き直したい。これを毎朝聞けば、絶対覚えられる自信がある!
「音読か!それなら、両手開くし、『ながら勉強』できるね。」
「ダメよ、『ながら勉強』は。勉強をやった気になるだけだから。一文字一文字を追って、なるべく正確に読むの。でもこうやってイントネーションを変にしたりして。」
沙希はとても楽しそうに、変なイントネーションで続けた。
「『国内において行われる資産の譲渡等のうち、次の資産には、消費税を課さない。』フフフッ。」
言っている本人も思わず笑っている。俺も思わず吹き出した。なんて楽しい時間なんだろう。この時間がずっと続けば良いのに。涼介の勉強合宿がもし実現したら、時間を気にせず話せるな。期待は膨らむばかりだ。
「そろそろ、暑くなってきたから、お風呂出るね!」
「そうだったね、そのことをすっかり忘れてた!また電話して良い?」
俺はすかさず、沙希に聞いてみた。
「もちろん!じゃぁ、今日はこの辺で。またねっ!」
やったぁ!俺は小さくガッツポーズをした。電話の向こうからは、お風呂から出る時に、水面に跳ねた水の音が聞こてくる。エロい。気づけば、俺はまた、沙希の裸を想像していた。
シーン画集 チラ見せ
[画像追加予定]
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実際の『シーン画集』は「ボカシ」も「★」もございません。
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