第30話 『思い出の場所』


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「山村沙希さん、どうぞ。」
待合室の天井に備え付けられたスピーカーを通して、先生に呼ばれた。俺は沙希の身体を支えるように診察室の中に入った。涼介、華、璃子ちゃんは、診察室の前に置いてある長椅子に座って待つことにした。
「山村沙希さんで間違いないかな?では、早速ですが、さっき行った検査の結果からお伝えします。」
沙希の身体は、まだ怯えるように震えている。俺は背中を撫でて、息を飲んだ。
「山村さん、おわかりの通り、今あなたの左目は見えていません。残念ながら、これはもう一生見えることはないでしょう。」
先生は淡々と事実を話した。これも患者への優しさなのだろうか。その冷酷な声色が俺を逆に落ち着かせた。先生は、更に続けた。
「問題は右目です。今まで何不自由なく見えていた右目に、突然影が現れた。これは何を意味しているか。大変申し上げにくいのですが、おそらく、右目にもガンが転移しています。」
沙希の目からも、俺の目からも、涙が溢れる。嘘であって欲しいという思いと、やっぱりかという思いが交錯する。
「当病院では、ここまでしかわかりません。ガンがどこに転移しているか、どこまで進行しているか。それらの精密検査をするには、申し訳ないですが十分な設備が整っていません。なので、早いうちに、山村さんの通っている中央記念病院で再度精密検査をする必要があります。その時は、おそらく、また入院することになるでしょう。」
沙希は震えた手を強く握って、先生に応えた。
「わかりました・・・。」
その悔しさ、無念が俺にも伝わってくる。
「中央記念病院には、私から連絡しておきます。入院は早いほうが良いです。受け入れ準備などもあると思うので、今日は無理ですが、明日とかどうでしょう?」
沙希にはもう、それに応える気力が残っていなかった。代わりに、俺が先生に応えた。
「わかりました、それでお願いします。明日ですね。」

俺と沙希は病室を出た。沙希は聞いたこともないような叫び声を上げた。
「アァァァーーー!」
他の三人も状況を察したみたいだ。その様子を見ていて、心臓をわし掴みにされたような気持ちだった。
「何でよ!何でよ!」
沙希は自分のスマホを病院の壁に投げつけた。スマホの角がその壁をえぐる。俺と涼介は沙希を必死に押さえ込んだ。周りの迷惑にならないようにとかではない。沙希自身のためだ。
「沙希!落ち着いて。」
落ち着いてといっても、落ち着けない状況であるのは、重々わかっている。でも、とにかく沙希を落ち着かせなければならない。華は長椅子に崩れ落ち、膝を抱えるように泣いている。璃子は、壁に寄りかかって放心状態だ。

あれから一時間くらい経っただろうか。俺ら五人は、落ち着きを取り戻しつつあった。正しく言えば、現実を受け入れ始めたのかもしれない。
「みんな、東京に帰ろう!」
俺は空元気に、明るく振舞った。
「そうだな、帰ろう、帰ろう!」
涼介も乗ってくれる。華と璃子ちゃんは、両脇から沙希を抱えるようにして、車へと戻った。

「・・・。」
帰りの道中は、誰一人口を開かない。どこか遠い田舎に放り出されたような静寂が、車内を包む。
「涼介、ありがとう。」
「沙希、お大事にね!」
俺と沙希は最初に車を降りた。トランクからキャリーバッグを二つ降ろして、車に向かって控えめに手を振った。俺はみんなの目を気にせず、この右手で、沙希の左手をしっかりと握っている。
「沙希、中入ろっか。」
「・・・。」
俺は沙希の手を引いて、部屋の中へと入った。グラスにお茶を入れて、沙希に渡した。沙希は、それを一気に飲み干す。そして、言葉少なに、口を開いた。
「あっくん、今日はありがとうね。ガンがさらに悪くなってたことにショックで。こんな私で、ごめんなさい。」
「全然謝ることなんてないよ。今、一番辛いのは、沙希自身なんだから。俺の方こそ、何もしてあげられなくてごめんね。」
沙希は静かに、首を横に振った。このままでは、いつまで経っても、ドンヨリした雰囲気だ。俺は気分を変えるために、明るい声で言う。
「そうだ、今日は出前取ろう。そうだな~、鰻重とか。それ食べて精力つけよう!ぶっ飛んでない沙希なんて、沙希らしくないよっ!」
「フフフッ。そうね。」
沙希に少し笑顔が戻った。それを見て、俺は安心した。

――21:00。

「はぁ~、鰻重、美味しかったね。明日、また中央記念病院まで行かなきゃだし、今日は早く寝ようか。」
沙希は改まったようにして、俺に言う。
「あっくん、私のお願い聞いてくれる?」
「うん、何でも聞くよ。」
「あのね、入院の前に、最後にいつもの場所に行きたい。」
沙希は俺に強く言った。まるで何かを覚悟しているようだ。いつもの場所とは、あの赤い鉄橋の掛かる河川敷のことである。俺と沙希は素肌の上に、オフホワイトのローブを纏う。家を出て、河川敷へと向かった。道中、俺と沙希は、思い出のこの道をしっかりと踏みしめるように、ゆっくりと歩いた。
「この道、今までもう何回通ったかわからないね。」
「そうね、なんだか感慨深いね。あっくんの家に初めて来たときは、全く未知の世界だったけど、この一カ月で、ここら辺の景色の見え方が変わったわ。」
沙希はしみじみと振り返った。
「また、退院したら、何度でも来れるよ。」
俺は心からそう思った。沙希も同じ気持ちだろう。堤防を上り、河川敷に降りる。
「今日は満月だね。」
俺と沙希は、背中合わせで、漆黒の空を見上げた。月光がオフホワイトを光らせる。そして、空には一面の星が無数に散らばっていた。
「あっくん、またこの景色を、この目で見れるかしら。」
沙希は俺に聞いた。目からは一筋の涙がツーっと落ちた。俺は胸が苦しくなった。
「きっと見れるよ。だから、頑張ろう。またこの思い出の場所に戻って来れるように。」
堰を切ったように、沙希の目からは涙が溢れる。
「あっくん、私、絶対またここに戻ってくる。絶対に、絶対に・・・。」
俺は沙希の肩を強く抱きしめた。
「そうだね・・・。」
沙希はいつのもように俺に跨る。沙希は俺の唇を噛みしめながら、何かに抗うように、必死で腰を振る。その目から溢れた涙が止まることはなかった。

こんな胸が痛むセックスを、俺は知らない。


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