第21話 『追放』


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「あぁ、沙希に合わせる顔がない。沙希のことを裏切ってしまった。しかも、入院中に。」
俺は途方に暮れていた。本意ではないとしても、事実として、俺は璃子ちゃんとヤってしまった。きっとこれで、璃子ちゃんは俺の弱みを握ったのを良いことに、行動がエスカレートしていくだろう。こんな手段を使うなんて、璃子ちゃんはサイコパスなのかもしれない。
「どうせいつかバラされるなら、自分で本当のことを話して、全力で謝ろう。」
俺は、自宅でブツブツ独り言を言いながら一晩ずっと自問自答していた。職場で璃子ちゃんは、昨日何事もなかったかのように、普通に接してきている。何かタイミングをうかがっているのだろうか。できることなら、離れたい。でも仕事上、そうはいかない。
「まずは、沙希にLINEするか・・・。」
俺はまだ決心が出来ていない。どんなに考えても、どう転んでも、きっと沙希を傷つけてしまうからだ。俺の目の前は、闇に包まれたように、視界不良だ。

「沙希、ごめんなさい。俺、最低な人間だ。クズ人間だ。」
俺は沙希に、遂にLINEを送った。沙希、怒り狂うだろうな。俺のこと、あんなに信じてくれてたから。バッシングはいくらでも受けよう。それだけの罪を、俺は犯したのだから。
「どうしたの?何かに落ち込んでるの?大丈夫?」
沙希からすぐに返信が来た。何も知らない沙希の文章が、俺の胸にグサグサ突き刺さる。余計な言い訳はしない。事実を伝えよう。
「璃子ちゃんと、一回だけ身体の関係を持ってしまいました。本当にごめんなさい。自分の過ちに、本当に後悔しています。」
当然だが、沙希は怒っていた。
「はぁ?なんで璃子ちゃんって子とヤったわけ?この前、あれだけ気を付けようって言ったよね?ハニートラップには絶対引っかかんないって言ったよね?私、あっくんを信じてたのに!私が、しばらくしてあげられなかったからいけないの?そんなに、ヤりたかったんだ。あっくんは、誰とでも良いんだ。私は、あっくんじゃなきゃ絶対に嫌なのに。最低!」
返す言葉もなかった。すべては、俺が悪いのだから。
「全部俺のせいです。俺が悪いです。本当にごめんなさい。」
「これって、謝って済む問題じゃないでしょ?信頼関係の問題だよ?私たちの仲って、そんなに薄っぺらいものだったわけ?バカみたい。私、勘違いしてたのね。」
「そんなことないよ!でも、本当にごめんなさい。今度の日曜日に、直接話そう。直接謝らせて下さい。」
「勝手にすれば。」
それから、沙希の返信はなかった。あぁ、この修羅場はどう乗り越えれば良いのだろう。沙希への気持ちが消えたわけでは全くない。ただ、ハメられただけなのだ。でも、そんなことを言って、誰が信じる?言い訳にしか、聞こえない。

――翌、日曜日。

俺は片道二時間かけて、沙希の入院している病院まで来た。エントランスを入ると、いつものように患者でにぎわっている。会計の奥にあるエレベーターに乗って、五階へ上がった。エレベーターから降りて、絨毯の廊下を進んで、沙希の病室の前に来た。
「はぁ、何て切り出そうか。」
俺は、途方に暮れていた。一言目は何て声を掛けるのが正解なのか。この修羅場を治めるには、どうしたら良いのか。
沙希の病室の扉を開ける。すると、中から声が聞こえた。先客でもいるのか?
「はじめまして、神崎璃子と言います。この前、『金時会』に入れてもらいました。」
「あなたが璃子ちゃんね。」
なんで璃子ちゃんが、ここにいる?なんで?俺の頭は混乱した。そういえば、鍋パーティのとき、華から色々探ってたな。それで、わざわざ来たのか?俺は、2人の声が聞こえる位置に身を潜めた。
「沙希さん、吉田さんとお付き合いしてるんですか?」
「まぁ、そうだけど。それが何か?」
「吉田さんは、もう私のものになりましたから。だから、沙希さん、吉田さんを諦めてもらえますか?」
「あなた、自分が何を言ってるのか、わかってるの?」
「沙希さんの方こそ、自分の状況がわかっていますか?こうやって、入院している間に、私と彼は身体の関係を持ちました。沙希さんが吉田さんの心を繋ぎとめておかなかったからですよ?」
「身体の関係を持ったって、篤とヤったってこと?どうせ、キスとかでしょ。」
「違いますよ。ちゃんと最後までHしました。私が彼の上に乗っかって、見せつけるように激しく動いたら、やめて!とか言いながら、彼、我慢できずに出しちゃったんですよ。その時の彼の顔、可愛かったな。沙希さん、そんな顔、見たことありますか?沙希さんがここでこうしている間に、そんなことになっちゃってたんですよ。どうせこの部屋から出られないなら、付き合ってても意味ないですよね?だから、吉田さんを諦めてください。そっちの方が、吉田さんもきっと幸せですよ?」
璃子、いい加減にしろよ。何ていうケンカの売り方なんだ。デリカシーがなさすぎる。それ以上言ったら、もう許さない。

(パチン!)

乾いた音が病室に響いた。きっと沙希が璃子ちゃんのことを平手打ちしたのだろう。そして、沙希の怒りの声が病室に響き渡る。
「いい加減にしなさい!ここから出てって!あなたに、あっくんの何がわかるの?何なの?私たちが積み上げてきたものの重さがあなたにわかるの?絶対にそんなことはない。あっくんがあなたとヤったですって?あなたがお酒を飲ませて、無理やりやっただけでしょ!それ、逆レイプよ!犯罪よ!そのことを、どの面下げて、私に言いに来たわけ?あなた、人として最低!前に涼介にも同じことして。華の気持ち、考えたことある?あなたって、本当に人の気持ちが考えられない人なのね。早くこの部屋から出てって!出て行きなさい!」
こんなに怒った沙希を見たことがない。沙希は声が枯れるほど、璃子ちゃんに怒鳴った。璃子ちゃんは、観念して、泣きながら、俺の横を通り過ぎ、病室から出て行った。
「沙希・・・。」
入れ替わるようにして、俺は病室に入った。沙希の目からは、大粒の涙が溢れている。
「沙希、ごめんね。本当にごめん。」
沙希は俺の胸の中で大声を出して泣いた。
「ううん、良いの。全部涼介から聞いたわ。あの日、涼介が目が覚めると、あの子があっくんに跨って、脅してるのを見たって言ってた。あっくんも怖かったでしょ。」
「涼介が。でも俺が璃子ちゃんと身体の関係を持ってしまったのは事実だよ。本当にごめんね、沙希のことを傷付けちゃって。」
「ううん、違うわ。あっくんも被害者よ。あの子、常軌を逸してるわ。それに悔しいの。私たちの積み上げてきたものが否定されたような気がして。あの子に私たちの何がわかるっていうの。」
沙希は、枯れた声を振り絞るように、俺に訴えた。
「私があっくんと一緒にいれないのも原因なのかな。入院なんかしてなきゃ、もっともっといっぱい色んなことができるのに。」
「沙希、そんなことないって。今は病気が良くなることだけ考えよう。」
「でもね、私の左目、どんどん悪くなってるような気がする。日に日に視界が狭くなってるの。すごく怖い。それにすごく不安。でもね、あっくんとこうして過ごす時だけは、その不安や恐怖を忘れられる。目を瞑ってても、その声、身体の温もり、肌と肌のふれあい。それを全身で感じることができるわ。」
俺は、その言葉に返す言葉が見当たらなかった。病魔は見えないところで粛々と進行している。俺は面会時間ギリギリまで、沙希と過ごした。

――その日の夜。

『金時会』のグループラインに、璃子ちゃんからメッセージが入った。
「こんばんは。夜に申し訳ないです。私、みんなにひどいことをしてしまいました。この場を借りて謝らせて下さい。本当にごめんなさい。涼介を弄び華を気付つけるようなことをしてしまいました。吉田さんを沙希さんから強奪しようとしてしまいました。本当にみんなの気持ちを考えず、自分勝手な行動だったと反省しています。私はこの輪の中にいる資格はありません。この『金時会』から抜けます。今まで、仲良くしてくれて、ありがとうございました。短い間でしたが、楽しかったです。これは嘘ではありません。仲間に入れてくれた日々は、私の受験人生の中での宝物です。こんなにドキドキワクワクした日々はありませんでした。8月の本試験に向けて、皆さんが合格できることを祈っています。そして、私も頑張って合格します!それでは、お元気で!」
文章が終わると、そのメッセージの下に、『璃子が金時会から退出しました。』と表示された。本当にやめてしまったんだ。でも、これで良かったのだ。今日からまた、平穏な日々が始まる。あとは、みんな、試験に向けて猛進するのみだ。


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