第15話 『終わりと始まり』


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――三月二十日。

沙希は無事に大学を卒業した。
「沙希、卒業おめでとう!」
沙希の袴姿は美しい。赤を基調として、アクセントにゴールドの刺繍が入っている。ちょっと薄い沙希の顔とのコントラストがマッチしている。
「沙希、キレイだね。」
俺は、みんなに聞こえないように、耳元で囁いた。
「じゃーん!」
俺と涼介、華は、沙希に花束を渡した。沙希はなんだか照れくさそうに、それを受け取り、みんなで集合写真を撮る。一足先に大学を卒業した気分は、どんな感じだろうか。いや、今はそんな余韻に浸っていられるほど余裕はないのかもしれない。入院が二日後に迫っているからだ。大学卒業は、人生の一つの区切りだ。その次のステージが、よりによって、病気との闘いだなんて。せめて、今日くらいは、全力で祝おう。今日くらいは、浮かれた気分で過ごしても良いじゃないか。卒業式には、沙希のご両親も来ていた。俺と涼介と華は、初めてお会いするので、ご挨拶をした。沙希のご両親は、人当たりが柔らかそうで、優しそうな雰囲気が漂っている。
「じゃぁ、そろそろ帰るね。みんな、しばらく会えなくなるかもね。」
沙希は、悲しい顔をして言った。
「なんだよ、沙希!落ち着いたら、お見舞いに行くからな!」
「私も、行くよ!寂しくなったら、いつでも呼んで!」
涼介と華が気丈に振る舞う。
「沙希、じゃぁ、また連絡するね。」
俺も沙希にそう言った。
「バイバーイ!」
沙希の目の前に銀色のベンツのEクラスが止まった。沙希は、当たり前のように、その車に乗った。沙希の実家は、お金持ちなのか。俺も涼介も華も、みんな目を見開いた。ご両親にも会釈をして、その車は、シュプールを描くように走り去った。
「行っちゃったね。」
華の目には、また涙が溜っていた。
「華、大丈夫だよ。沙希はきっと。」
涼介が、励ます。何も根拠はなかったが、みんなそう思う気持ちは強かった。

――その夜。

「あっくん、明日泊まりに来れる?」
晩飯を食べる用意をしていたら、沙希からLINEが来た。沙希は心や身体が寂しくなると、俺を自宅に呼んだ。あまりにも頻繁に自分の自宅に呼ぶものだから、沙希はまだ、俺の自宅に来たことはない。でも、こうやって頼ってくれるのは、なんだか嬉しい。まぁ、当たり前か。俺たちは、付き合っているのだから。
「もちろん、大丈夫だよ。入院の準備は大丈夫?明日、俺も一緒に手伝うよ!」
「ありがとう、助かる!どれくらい入院するかまだ分からないから、準備が大変で。両親も実家に戻っちゃったし。というか、私が実家に帰したんだけどね。笑」
「そうだよね。入院が何泊になるかわからないと、どんだけ着替えとか持ってけば良いか難しいね。洗濯とかできるのかな?」
「ううん、院内で看護師さんにお願いすれば、洗濯してくれるみたい。何かホテルに滞在するみたいだね。笑」
今どきの病院は、そんなにサービスが良いのか。早くお見舞いに行ってみたいと思った。どんな部屋なんだろうか。
「生活には不自由しなそうだね。身の回りのものは?歯ブラシとか、シャンプーとか、ドライヤーとか。」
「どうだろう、ラブホじゃないんだから、そんなに揃ってないんじゃない?」
「そっか、ラブホじゃなかったか!俺、ホームシックになったら、いつでも飛んでいくから!」
「ありがとう。ラブホ代わりにしないでねっ。でも、あっくんのこと、寂しくなって、すぐに呼んじゃうかも~。」
お互いに冗談合戦をした。俺は、話を本題に戻す。
「それで、明日は、何時頃に行けばいいかな?」
「う~ん、じゃぁ、十時くらいに来て!」
「了解!今日は卒業式で疲れたと思うから、ゆっくり休んでね。」
「うん、そうするねっ。」
沙希から、可愛いLINEスタンプも送られてくる。俺も負けじと、LINEスタンプを送り返す。しばらく、スタンプだけのやり取りが続いた。
「いよいよ、明日、入院か。」
俺は、病院にかかったことがあまりないので、もちろん入院もしたことがない。入院生活はどういうものなのか。よくドラマとかで見る、六人一部屋みたいな、あんな感じだろうか。なんか息が詰まりそうだ。できる限りのサポートと、気分転換はさせてあげたい。

――翌日。

俺は十時より十分早く、沙希のマンションに着いた。エントランスのインターホンを押す。
「どうぞ~!」
インターホンから、元気な沙希の声が聞こえた。俺は自動扉を通り、突き当りのエレベータに乗る。沙希の部屋は、二階の一番奥だ。俺はいつものように、玄関のインターホンは押さずに、中に入った。
「ふぅ。」
大きく息を吐いた。もうしばらく、この部屋に来られなくなるかもしれない。沙希と出会ってから、何度もこの玄関をくぐった。まだたった三ヶ月くらいの付き合いだが、思い出深い。
「沙希、お邪魔します!」
「いらっしゃい、待ってたわ!」
「おっ!」
思わず声が出た。いつもは、トレーナーに下着1枚だが、今日は違った。沙希の身体を隠すものは、淡い水色の下着だけだ。沙希の身体は美しい。見事な曲線美というべきか。おっぱいの膨らみから、下半身にかけてのウエストラインは黄金比だ。手脚はスラっと長くて細い。少し黒味がかった銀髪の下には、キラキラと笑顔が輝く。今日でしばらく、この身体も見納めか。この部屋に初めて来て以来、何度も何度も身体を重ねた。ベッドの上、キッチン、洗面所、玄関、ベランダ。その全てが走馬灯のように思い出される。しばらく、この沙希の感触とはお別れだ。
「沙希・・・。」
「あっくん・・・。」
俺と沙希は数秒見つめあった。その沈黙に耐えられず、沙希は俺を結構な勢いで押し倒した。沙希も同じことを思っていたらしい。だから、この姿なのか。俺と沙希は、ただただ本能のままに、その時間を過ごした。

「もう十七時だね。」
俺らは、途中、休み休み時を過ごしていたが、まだ何も食べていない。俺のおなかがグゥ~っと鳴った。
「あっくん、お腹鳴ってる!」
少し日焼けした肌が露わになっている俺のお腹を見て、沙希は言った。そして、俺のお腹に耳を当てる。
「このまま、病院なんか行かないで、ずっとこうしてたいな。」
沙希の言葉が、俺の胸に突き刺さる。そのまま、沙希はまた、俺の熱気を口の中に溶かした。
「あっくん、私ね、目を閉じていても、何不自由ないこの時間が大好きなの。もうあっくんなしでは生きていけない。だから、心配。入院中は、なかなか会えないでしょ。こういうこともあんまりできなくなっちゃうじゃない。」
沙希は子猫のような上目遣いで、俺に言った。
「あっくんの気持ちが、だんだん私から離れて行かないか、心配なの。」
「大丈夫。絶対にそんなことはないから。この前、約束したでしょ。どんなことがあっても、俺は沙希のそばにいるって。だから俺を信じて。大丈夫だから。」
俺は、沙希の頭を撫でながら言った沙希は安心したように、俺に寄りかかった。
「そろそろ、夜ご飯買いに行こうか。ごめんね、今日は何も準備できてなくって。」
「ううん、準備だけでも大変なんだから。駅前まで、食べに行こっか!」
夜ご飯から帰ってくると、沙希はベッドに倒れこんだ。俺がトイレから戻ると、沙希は深い眠りに落ちていた。心が満たされたのだろうか、身体が疲れたのだろうか。
「おやすみ、沙希。」
沙希は穏やかな顔をしている。俺は沙希の寝ている姿を、この目に焼き付けた。

――翌朝。

「じゃぁ、入ろうか。」
俺と沙希は、病院の前に立っている。昨日から今日の朝にかけて、何回求め合ったかわからない。重たい瞼を擦りながら、いざ、病院の中へと入る。沙希は手際良く入院手続きを済ませ、部屋のカギをもらう。なんかホテルのチェックインみたいだ。会計の奥にあるエレベーターに乗って、五階へ上がった。エレベーターから降りると、そこにはホテルさながらの絨毯の廊下と、その奥には、数部屋のドアが並んでいる。沙希は奥から二番目の部屋らしい。さっき受け取ったカギで部屋の中に入った。
「おぉ!」
沙希と俺は揃って思わず声が出た。広い。なんだこれ。俺の想像していた病室とは、まったく違うものがそこにはあった。まず、六人部屋ではない。中央に陣取ったクイーンサイズのベッドが、俺らを向かい入れた。ラブホとかのベッドとはワケが違い、高級感が溢れている。入院中の沙希専用のベッドだ。そして、なんといっても広い。部屋の中には、お風呂やシャワー、トイレも完備されている。ベッドの横には、まだ電源が入っていない医療器具が並ぶ。緊急時は、きっとここで処置ができるのだろう。応接用のテーブルも置いてある。窓は大きく縁取られ、病院の中庭が見渡せる。中庭にある桜の木は、まだ七分咲きといったところで、入院生活に慣れるころには、満開になるだろう。都心から離れているせいか、空気もキレイだ。
「私ね、桜か一番好きなの。桜って、焦らすように蕾大きくなって、満開になったと思ったら、しばらくして散っちゃうでしょ?なんかその儚さというか、その散り際の美しさが好きなの。あと、満開の桜を見てると、幸せな気分になれるじゃない。今年の桜は、この病院で見ることになりそうね。」
沙希は、中庭の桜をじっと見つめている。今年はちょっと難しそうだが、来年はきっと元気になって、桜を見ることが出来るだろう。これから沙希は入院だというのに、この設備や景色を見て、なんだかワクワクしている自分がいた。もちろん入院するのは沙希だが、不安や恐怖が、こういう形で少しなくなるのは、沙希のご両親の優しさだろう。というか、本当にお金持ちだな。
「これなら、みんなでお見舞いに来ても、誰の迷惑にもならないね。」
「そうね、まさか、こんな部屋とは思わなかったわ。アメニティもラブホ並みに充実してる。ビックリだね。」
沙希と話していると、女性の看護師さんが部屋に入ってきた。
「こんにちは。今日からよろしくお願いしますね。もう少ししたら、一旦、先生が診察しますので、準備しておいてください。また呼びにきますね。あと、面会時間ですが、平日は十六時から十八時の二時間、休日は十四時から十八時の四時間です。ご家族の場合は、この限りではありません。」
そう言うと、忙しそうに、足早に部屋を出て行った。
「沙希、診察みたいだし、そろそろ帰るね!」
「うん、あっくん、今日はありがとね。」
俺は沙希の唇に、強めにキスをした。もしかしたら、次、キス出来るのはだいぶ先かもしれない。沙希もそう思っているのか、名残惜しむように、ゆっくりと唇を離した。
「じゃあね!いつでもLINEしてね!俺もまたLINEするね!あと、講義のノートとかレジュメも届けに来る!」
「うん、よろしくね~!」
こうして、沙希の入院生活が始まった。


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