第10話 『勉強合宿』
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――土曜日。
決戦の時。勉強合宿と銘打たれているので、もちろん勉強道具も入れて、自宅を出発した。待ち合わせは、新宿駅。予め手配しておいた特急券を涼介がみんなに配り、スーパーあずさに乗り込む。席は前後二名掛けだ。前に涼介と華が座り、その後ろに俺と沙希が座った。涼介と華は楽しそうに会話を弾ませる。それとは対照的に、俺らには沈黙の時間が続く。どうにかしなくてはと思うものの、どうすれば良いのかわからない。言葉が出てこない。何て声を掛けたら良いのかわからない。考えれば考えるほど、迷宮にはまっていく。時間は無情にも過ぎていく。俺らを待ってくれない。しばらくすると、沙希が苦しそうに俯いた。
「沙希、大丈夫?」
俺は咄嗟に沙希に声を掛けた。涼介と華は、それに気付いてはいない。
「放っといて!」
沙希は席を立ち、トイレの方へと早歩きで行ってしまった。また体調が悪そうだった。あの時みたいだ。また目のせいだろうか。検査はどうなったのだろう。やっぱり沙希と話がしたい。結局、沙希は、電車が駅に着くまで、席には帰ってこなかった。前の二人は、やはりそれには気付いていない様子だ。
電車から降りたら、涼介の先導で、宿へと向かった。宿は歩いてすぐの場所にあった。老舗っぽい佇まいで、その年季の入り具合に圧倒される。木造の建物の入り口を入ると、正面に受付があった。
「四名で予約した伊藤です。」
涼介が女将さんらしき人に名乗った。
「いらっしゃいませ。お待ちしておりました。こちらがお部屋の鍵です。お部屋は2階の突き当りになります。大浴場は一階の奥になります。大浴場は二十一時までのご利用でお願い致します。」
そう言って、女将さんは、涼介に鍵を二本手渡した。
「あっ、ちょうど今、他のお客さんがキャンセルになって、今夜はお客様たちしかいないので、大浴場はお好きな時間にご利用いただいて結構でございます。」
「わかりました、ありがとうございます。」
俺らの貸し切りか。何かと都合が良さそうだ。とりあえず、俺らは部屋に向かった。玄関を入ると、長い廊下があり、左側に襖が二枚ある。手前と奥でそれぞれの部屋への入り口になっている。部屋は畳八畳くらいが二つ。今は間仕切られていないが、部屋のちょうど真ん中に襖を閉めるレールがある。畳の一番奥には、小さなテーブルと、椅子が二脚。良くある旅館の間取りだ。とりあえず、男は手前の部屋、女は奥の部屋となった。畳の真ん中においてある四角いテーブルに腰掛け、上にあった和菓子をみんなで食べた。沈黙を破るように、涼介は口を開いた。
「じゃぁ、とりあえず夕飯まで、各々勉強しようか。一階の研修室を借りてるから。」
そうだった。これは勉強合宿なのだ。俺は少しホッとした。この心地よくない時間を潰す理由を探していたからだ。
「研修室で勉強するも良し、この部屋で勉強するも良し。各自やりやすい方で!」
とりあえず、みんなで一階の研修室へ移動した。研修室は、予備校にあるような長机とパイプ椅子が整然と並んでいる。みなそれぞれ、ある程度の距離をとって、席に着いた。俺は旅館に着いてから、まだ沙希と一言も話していない。俺の頭の中は、沙希とどのタイミングで、何から話そうかということでいっぱいだ。
「沙希、ここってどういうこと?」
華が沙希に話しかけた。
「ここはね、こうして、こうやって・・・」
沙希は丁寧に、華に教えた。華も沙希もなんだか楽しそうだ。電車の中から、沙希は暗い表情をしていたので、俺は少し安心した。涼介も、その様子を見て、ニヤニヤしている。勉強合宿っぽくなってきた。
「そろそろ晩飯の時間だ!」
涼介が待ってましたとばかりに、元気に言った。
「やったー!ふぅ~疲れた。」
「どんなご飯が出てくるのかしら。」
華と沙希も期待したような声で答えた。
「もうこんな時間か。あっという間だったな。」
時計の針は、十七時半を回ろうとしている。
「夕飯は部屋に運ばれてくるから、そろそろ片付けて行こう。食べた後は、旅館の裏の駐車場で花火をしよう!」
夕飯は豪華だった。刺し盛に色とりどりの小鉢、一人一つ鍋があり、中には艶々の湯豆腐が浸かっている。あまりの品数の多さと、美しさに、皆思わず食べることに集中し、舌鼓を打った。涼介が一番最初に食べ終わるまで、皆、その口の中に広がる幸せを感じ、その盛り付けの美しさにうっとりした。
「ぼちぼち食べ終わったかな?浴衣に着替えて、花火をしよう!」
あらかじめ花火は、コンビニで調達済みだ。あぁ、手持ち花火なんて何年ぶりだろう。一旦部屋の仕切りをして、男女に分かれて浴衣に着替える。男と女が同じ部屋の中にいて裸。その間には、襖たった一枚しかない。俺の妄想は膨らむ。この薄い壁の向こうには、桃源郷が広がっているのだ。
「もう大丈夫だよ!」
襖の向こうから、華の声が聞こえた。ゆっくりと襖が開く。
「おぉ~!」
俺と涼介は、思わず拍手した。二人の浴衣姿は、美しかった。華は隠しきれていない豊満なおっぱいが見事だ。沙希は、顔から足の先までの細くてキレイな曲線が、大人の色気を醸し出していた。
「よし、駐車場で、さっそく、花火をしよう!」
涼介は、皆を急かすようにまくし立てた。それにしても、花火なんて懐かしい。本当は全力で楽しみたいところだったが、俺にそんな余裕はなかった。
「沙希、この花火きれいだよ。」
自然な流れを装いながら、俺は勇気を持って沙希にこっちに来るように促した。沙希は、反応なく、こっちに近づいた。涼介もチャンスとばかりに、華と花火を始めた。俺と沙希の間に、会話はない。涼介と華を見ていると、自分が情けなくなった。
「あぁ、もうそろそろ花火、なくなりそうだね。」
「花火、ちょっと少なすぎたかな?」
「まだちょっと物足りない感じだな。」
涼介と華がこっちを見た。確かに花火は残り少なくなっていた。涼介の顔には、もう少しこの時間を過ごしたいと書いてある。沙希はそれを察したのか、口を開いた。
「私、コンビニで花火買ってくるよ。そこの道をまっすぐしばらく行けば、あったよね?」
街灯も点々としかなかったので、真っ暗だ。俺は沙希を1人で行かせられないと思い、後先考えず、言った。
「暗い道だから、俺も一緒に行くよ。涼介と華は待ってて良いよ。」
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