第09話 『すれ違い』


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「・・・。」
「ご飯の準備するね!」
沙希はそう言うと、台所へ向かった。俺は、ベットに腰掛けて、沙希の部屋の全体を見渡した。
「ん?」
デスクに大きな封筒が置いてある。その封筒には大木眼科という文字が。
「お待たせ~シチュー作ってみた!」
「おぉ、美味しそう!」
俺の目は輝いた。こんなご飯を食べるのはいつ振りだろう。しかも手料理。心はそのシチューの中に解けてしまいそうだった。
「そうだ、沙希、目とか悪いの?」
さっきの封筒が気になったので、恐る恐る聞いてみた。沙希は少しうつむいて応えた。
「うん、去年の年末あたりから、左目がちょっと良くなくって。視力が落ちたんじゃなくて、なんか視界の左上に影が見えるようになっちゃって。そのせいで、めまいがしたり、熱が出たりしてたの。」
「そうなんだ、それは大変だったね。最近予備校に来れてなかったのも、そういう事情があったんだ。」
「それでね、この前、その眼科で検査をしたんだけど、また精密検査が必要で、今度大きな大学病院まで行かなきゃいけなくって。」
「精密検査かぁ。いつ行くの?」
「今度の水曜日。どんな検査をするんだろう。ちょっと怖いわ。その詳しい検査結果は、その日じゃなくって、また後日改めてみたいだけど。」
俺は沙希の手を包み込むように握った。
「大丈夫。きっと大丈夫だから。何も異常ないよ。」
「そうよね、ありがとう。私、頑張って行ってくるね。」
そう言うと、沙希は不安そうな顔をして俺の肩に顔を預けた。
「そろそろ帰らなきゃ。今日はありがとね!シチュー美味しかった!また食べたいな。」
「こちらこそ、ありがとう。また食べに来て!」
「そうだ、そういえば、勉強合宿どうする?」
「再来週末だっけ?講義はない週だけど、予定あるかもしれないから、ちょっと調整してみる。今度の講義のときに、みんなに行けるかどうか言うね!」
沙希は少し考えて応えた。
「了解!あっ、あと、俺らがこういう関係だってこと、涼介と華には少し隠しとこっか。」
「そうね、二人だけの『秘密』ね。あっ、あと、目のことも、あの二人には黙っててね。」

――火曜日。

「あぁ~、全然覚えられない!」
俺は髪の毛を激しくぐちゃぐちゃにしながら、部屋で叫んだ。理論が全然覚えられない。やってもやっても、雲をつかむような感じで、手の中から抜けていく。なんて自分はバカなのか。なんでこんなに毎日毎日やっているのに覚えられないのか。俺はクズだ。どうしようもないアホだ。こんな自分にイライラする。俺はテレビのリモコンをベッドに叩きつけた。それでも、腹の虫が収まらない。その時、スマホが鳴る。タイミングが最悪だ。
「明日、中央記念病院に検査行ってくるね!」
沙希からLINEが来た。俺は今、それどころではない。
「そっか、頑張ってね。」
俺はそっけなく返した。
「それだけ?」
沙希からすぐに返信が来た。俺はまだイライラしていた。それだけ?ってなんだ。こっちもそれどころじゃない。正直、俺はこのやり取りを一刻も早く終わらせたかった。
「だから、頑張ってねって!」
「なんでそんなに他人事みたいなの?私のこと、心配じゃないの?」
沙希は怒っていた。そっちがその気なら、こっちも応戦してやる。
「俺も今、それどころじゃないんだって。理論が全然覚えられない。沙希にはこの気持ちわからないだろうけど。」
俺は皮肉を込めて、返した。
「なにそれ?どういう意味?」
「ポンポン、いとも簡単に合格しちゃう人に、俺の気持ちなんてわかんないでしょ。」
「最低!」
俺はもう返事をこれ以上返すまいと、スマホをベッドに投げた。沙希がどんな気持ちで連絡をくれたのか。この時の俺は、そこまで考えが至らなかった。イライラが治まらないから、勉強はこれくらいにして、ストレス解消に、一発抜いて、俺は不貞腐れたように寝た。

――翌日。

俺は昨夜、自分勝手過ぎたと反省した。沙希は今日、大きな大学病院で目の検査だ。きっと怖いだろう。きっと心細いだろう。そんなSOSを俺はスルーしてしまった。俺は検査の結果と、昨日のことを謝るために、沙希にLINEをすることにした。
「沙希、昨日はごめんね。俺が自分勝手だったよ。沙希がどんな思いをしていたのか、そこまで考えてあげられなかった。それで、今日の検査はどうだった?何も異常なし?」
とりあえず、こんなところで送ってみよう。まぁ異常はきっとないだろう。
沙希から返信は来なかった。それどころか既読にもならない。何日も返信がないこと自体が珍しい。ましてや、既読にもならないなんて。
「沙希、怒ってるのかな。」
明日は日曜。嫌でも沙希と顔を合わせる。俺は、第1声、何て声を掛けようか、思い悩んだ。謝罪から入った方が良いのか。それとも、自然に何事もなかったかのように挨拶しても良いのか。答えのない難題が目の前に立ち塞がった。

――日曜日。

俺はあまり眠れなかった。難題を解くことは、未だできていない。寝不足で少し頭が痛かったが、なんとか準備をして家を出る。予備校に着くまでの間、俺は難題に挑み続ける。しかし、答えは見つからない。自問自答を繰り返していると、受付には、沙希の姿があった。
「沙希!」
俺は、反射的に名前を呼んだ。沙希は振り返ったが、何も言わず、そそくさと教室へ向かって行ってしまった。俺に気づいてたよな?無視された。この前のことを、まだ相当怒っているのだろう。俺も後を追うように教室へ向かった。もちろん難題の答えは、未だ持ち合わせていない。
教室に入ると、沙希はいつもの二列目の席に座っていた。なんとなく覇気がないように見える。いつもは、オーラに満ちている感じなのだが。まぁ、気のせいか。俺は右の列の四列目くらいに座った。講義が始まるまで、あと十分ある。準備をしていると、涼介がやってきた。
「篤、沙希!来週の勉強合宿、どうする?」
来て早々、涼介は、俺と沙希の間に爆弾を投下した。その破壊力は凄まじい。おいおい!と声を大にして言いたかったが、こっちの事情なんて涼介は知らない。あっちはあっちで、自分のことで頭がいっぱいだろう。あぁ、沙希は絶対断るな。俺は半ば諦めムードだ。付き合ってはいないものの、たぶん、あとは気持ちを伝えるだけの状態ではある。だが、まだ沙希は、俺のことを許してはいない。
「私、行くことにしたわ。」
「えっ?」
聞き間違えかと思った。今、確かに行くと言った。もう、沙希が何を考えているのか、俺にはわからない。濁った沼の中を覗いているようだ。
「で、篤は?」
不意を突かれ、一瞬固まってしまった。
「あぁ、俺も行くよ。」
「じゃぁ、決まりで!詳細はまた、金時会グループLINEにアップするな!」
「篤、ちょっとあとで。」
涼介は耳元で言った。俺と作戦会議をするつもりだろうか。
「うん、良いけど。」
まぁ良いか。付き合おう。そんなことより、沙希だ。まず、一回話し合わなくては。まだ、正式に告白もしていないし。そんなやり取りをしていると、いつの間にか、塚原先生が教壇に立っていた。モヤモヤした状態で、講義が始まった。
「それでは、今日はこれで終わります。今日の分もしっかり復習してくださいね。」
先生の言葉が、俺の胸に突き刺さる。わかっています。でも・・・そもそも、それが原因で沙希とこんな状態になってしいる。テキストをバッグにしまい、俺は意を決して、沙希と話そうと前の方を見たが、そこにもう、沙希の姿はなかった。窓の外は、俺の心を映すように、雨が降っている。
「宿なんだけど、やっぱりみんなで行くなら四人部屋が良いかな?」
涼介は言った。
「四人部屋はマズいんじゃない?着替えるときとかどうするの?おっぱいとか丸出しじゃん。俺は見たいけどね。いっそのこと、部屋に露天風呂があるやつにしちゃうとか?」
「入ってるところ、覗きたいなぁ。」
「うん、その時は俺も付き合うよ!」
冗談を交えながら、俺は応えた。
「じゃぁ、この部屋は?四人部屋だけど、真ん中が襖で仕切られてるやつ。これなら、着替えのときとか、寝るときは二対二に出来るし。」
「涼介、ワンチャン華とヤるつもりかよ~。」
「そんなことないって!まぁ、あわよくばね。ちゃんとゴム、持ってかなきゃな。」
「ハッハッハッハッハ。」
このままだと、なかなか話が前に進まない。俺はその部屋にすることを呑んで、話題を変えた。
「それで、合宿中の作戦はどうする?」
涼介は、待ってましたとばかりに、食いついた。
「ベタに、花火とかやっちゃう?それとも、肝試しとか。」
「肝試しは難しいでしょ。花火は良いかもね。あっちに行ってから、コンビニで調達しよう。」
だいたい流れは決まった。あとは、当日までに俺は、沙希と仲直り出来るのか。正直、自信はない。

――その日の夜。

沙希から数日ぶりにLINEが来た。何やら様子がおかしい。その内容を見て、俺は固まった。
「勘違いしないでね。私は、涼介と華が上手くいくように協力するだけだから。それに、私たちは、付き合ってないし。それ以上でも、それ以下でもない。」
不意打ちで、思いっきり背中を叩かれたような気分だ。沙希に突き放された。この前のことが相当気にくわなかったのだろうか。それとも、他に何か原因があるのか。俺は慎重に返事を返した。
「この前のことは、本当に申し訳なく思ってる。ごめんなさい。一度、沙希とちゃんと話がしたい。どこかで時間、もらえないかな。」
沙希から返事が来ることはなかった。
涼介から金時会のグループLINEに、勉強合宿の詳細が送られてきた。一泊二日。土曜日の朝に出発して、日曜日の夜までだ。俺はその二日間の間に、何とか沙希と話がしたい。涼介に協力するフリをして、どうにかチャンスをうかがおう。


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